簡単なあらすじ
SPコミックス第46巻収録。イラン革命によって政権を追われた国王ムハマドは、スイス銀行に預けた預金を、新政府に没収される前に引き出そうとする。しかし国王の預金はスイス銀行側が勝手に投機に回してスッてしまっていた。即刻返金を求める国王の前に窮地に立たされたスイス銀行は、ゴルゴを雇い国王を亡きものにしようとする……。
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スイス銀行が大窮地に
『ゴルゴ13』を読んだことのない人でも「スイス銀行」の名前は聞いたことがあるだろう。ゴルゴの報酬の振込先として有名なこのスイス銀行こそが、本話の主役である。銀行破産の危機を逃れるべく、藁をもすがる思いでゴルゴに依頼をかけるグリンヒル頭取。
『南仏海岸 』や『最後の間諜 -虫-』にも登場した彼だが、本話のラストで依頼の成功を見届けるやいなや、自ら命を絶ってしまう。セミレギュラーと思われたキャラがあっさり退場してしまうところも、本作のシビアな世界観の表れだろうか。

特殊部隊も敵わない砦を落とすゴルゴの策
毎度ながら、ゴルゴが狙撃を成功させるために張り巡らす計略も見所である。今回はクレーン車の故障を装ってターゲットの城塞に堂々入り込み、まずは電話機の位置を確認する。
夜になったらターゲットを電話で誘い出し、公然と放置していたクレーン車の上からライフル弾を叩き込むという手筈だ。比較的シンプルな策だが、狙撃位置の確認と狙撃ポジションの確保を一石二鳥で実現させる手際には流石と唸らされる。
特殊部隊をも全滅させる城塞に、工夫と技量で風穴を開ける爽快感。依頼主に感情移入して読んでいた読者は、ほっと胸をなでおろすだろう。
「親の心子知らず」を体現する皮肉なラスト
本話のラストでは、イラン国王の死によってスイス銀行は救われるが、頭取は責任を取って自らも命を絶ってしまう。自分の亡き後の銀行を息子に託して……。
そんな父の思いなどつゆ知らず、ドラ息子は国王暗殺を新聞記事で知り「なぜ、死に急いだりしたんだ、父さん……あと一日待てば……何もかもうまくいったのに……」と独りごちる。
父が銀行を守るために何をしたのか彼は知らないのだ。彼にそれを悟らせずに逝くことこそが亡き頭取の覚悟だったのだが、なんとも皮肉な幕引きである。こうしたビターな読後感こそ『ゴルゴ』の真骨頂か。

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東郷 嘉博

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