この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第91巻収録。EC統合にむけて動くベルギーのグールト外相。が、その矢先にベルリンの壁が崩壊。それにより西ドイツがEC統合に対して消極的になることを恐れるグールトは、西ドイツ実業界の重鎮・ベルマンを暗殺し、EC統合の流れを引き寄せようと画策するが……。
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二重依頼を巡るゴルゴの対応に注目
第8巻の『マニトバ』をはじめ、ゴルゴへの依頼が重複するケースは度々あるが、本話での彼の対応には注目するべき点が多い。既にグールトの依頼を受けていたため、リンデンバウムの依頼を断るゴルゴだが、この時の彼は先客があることを相手に分からせるような言い方をしている。
それでいて、グールトの裏切りを暴く際には、ちゃっかりと言うべきか、リンデンバウムを呼び出して自分に協力させているのだ。ゴルゴのことだから相手の人間性をしっかり見抜いているのに違いなく、実際にリンデンバウムの誠実な協力で裏切り者を始末するラストは痛快だ。
依頼人達にゴルゴの存在を意識させたRPG
本話で大人の趣味として登場するロールプレイングゲームは、今日ではコンピュータゲームとの対比で「テーブルトークRPG」と呼ばれている。1990年当時はまだRPGといえばこの方が一般的だった。
プレイの内容を巡って大の大人が感情をあらわにするのは、実際の現場でもあるようで、ゲームといえど人間の本性が表れるようで面白い。このゲームが単なる余興ではなく、依頼人のグールトやリンデンバウムがゴルゴの存在を意識する切っ掛けとなったり、さらにはグールトの度を超えた「遊び」の伏線にもなっている点は、作劇の妙を感じさせる。
壁越しの狙撃を読んでいた標的の覚悟
数多くの歴史的事件をタイムリーに作中に反映してきた『ゴルゴ13』だが、本話のテーマであるベルリンの壁崩壊などはその最たるものの一つ。壊れた壁の隙間から、国境を超えて標的を狙撃するという展開も実にキャッチーだ。
標的のベルマンはゴルゴへの依頼歴があり、彼が自分を狙っていると聞かされた時点で半ば死の覚悟を決めているように見える。その証左が、ゴルゴが読唇術で読み取っている、標的自身の「私がゴルゴ13なら、壁越しに狙撃するな」という呟き。もはや逃げられないことを悟った上で、彼は敢えてその場所に来たのだろう……。
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東郷 嘉博
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