この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第96巻収録。イスラエルの機関“シャバク”は、抵抗運動を扇動する“イーグル”なる謎の人物を追っていた。シャバクはイーグルも出席する幹部会議があることを知り、会議の場で全員を逮捕することに成功。しかしイーグルの素顔を誰も知らないため本人の特定に至らない。そんななか、ゴルゴが囚人として収監されてくるが……。脚本:K・元美津
スポンサーリンク
想像を絶する驚愕の教育現場
「悲劇」と一言では片づけられない悲しすぎる物語だ。冒頭、ヨルダン川西岸の入り組んだ政治的事情の説明後のPART2の場面に、多くの日本人は目を疑うに違いない。しかし、戦闘が日常化し、人の命がたやすく失われていく地域の人々にとっては民族の受けた仕打ちを伝えていくことも教育の一環と考えられているのだろう。
こうして憎悪の連鎖が続くと思うとやるせなさが募る。そしてその場面が深い愛と憎しみの交錯する悲劇的なラストシーンへとつながる構成になっている。ゴルゴの銃弾は大儀を選択した悲痛な決断を載せて標的を貫いた。
宗教の戒律と食との関係
作中、刑務所の房内で、イスラエルのスパイとなっているアーデルから、ゴルゴがイスラム教徒かどうか探りを入れられる場面がある。そこでゴルゴにイスラムの食について語らせているのが興味深い。
イスラム教では豚肉の接種が禁忌ということをアーデルが話題にしているが、イスラムには「ハラル」という摂取が許される食物の基準があり、摂取が禁じられている「ハラム」という基準も存在する。以前インドネシアで、日本の食品会社が販売していた調味料に豚肉が使われていたにもかかわらず、記載がなかったため問題になったケースもあった。
イーグルは自分の運命を知っていた
狙撃後、何事もなかったように「サラーム」と挨拶して立ち去るゴルゴの、イスラムの衣装姿が決まっている。最も似合うファッションベスト3に入るかもしれない。彼は刑務所で、自分の姿をイーグルに見せることで、その運命を知らしめたのだろう。
イーグルも自分が逆の立場なら同じ事をしたと、覚悟を決めたに違いない。ラストシーンで「アーデル、わたしのアーデル」とつぶやくナディラ。手にしたナイフから滴る血と、頬に流れる、くめども尽きぬ涙が、ヨルダン川は太古の昔から流された数々の血と涙の象徴ではないかと思わせたのだった。
この作品が読める書籍はこちら
野原 圭
最新記事 by 野原 圭 (全て見る)
- ゴルゴ13:増刊第100話『獣の爪を折れ』のみどころ - 2024年8月18日
- ゴルゴ13:第485話『欲望の輪廻転生』のみどころ - 2024年7月30日
- ゴルゴ13:第520話『未病』のみどころ - 2024年7月29日