この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第154巻収録。ゴルゴは米国立衛生研究所の所長・ジェーンから、ゲノム医学を生物兵器に転用する研究を行う一派の殲滅を依頼される。シンガポールの研究所を破壊し、研究所の博士ら関係者を始末するゴルゴ。しかしその裏ではアジアに先を越され、特許の数々を独占させるわけにはいかないジェーンの思惑が隠されていた……。脚本:城匠
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遺伝子治療に活用されるウイルスベクター
ベクターとは、作中でも説明されているように、細胞に遺伝子を送り届ける「運び屋」となる媒体のこと。中でもウイルスをベースとするものをウイルスベクターといい、遺伝子治療やワクチン開発に利用されている。
本話から2年後の2006年には、山中伸弥教授の研究グループが「iPS細胞」の論文を発表しているが、その作成にもウイルスベクターが用いられていた。作中の桑原氏も、日本人特有の手先の器用さから「ゴッドハンド」と呼ばれているが、その少し後に日本の研究者がこの分野で功績を上げているのは、作品と現実の重なりが見えて面白い。
依頼者の嘘を許さないゴルゴの鉄の掟
依頼の善悪を問わない一方、嘘や隠し事は許さないのがゴルゴの掟。アメリカの国益のためという真意を隠していたジェーン女史は、その禁忌に触れ、ラストであえなく始末されることとなる。
文庫版の解説で杉森氏も述べているように、本音を明かして依頼してもゴルゴは引き受けていたに違いない。生物兵器の開発阻止という大義名分を取り繕ったことが却って仇となった、皮肉な結末であった。かたや、任務の遂行に利用された桑原氏らは、結果的に誘拐から救われ、施設の爆破時にも命を見逃されている。ゴルゴなりの「筋」が伝わってくる一幕といえる。
後の世を予言したかのようなナレーション
後の『マイクロテロリスト』や『高度1万メートルのエピデミック』などと並び、バイオテロの危機が謳われた本話。そのラストは、「何者かが作り出した『病』が世界を席巻する日も近いのかもしれない」という不吉なナレーションで締めくくられる。
本話が発表された2004年当時は、炭疽菌テロの衝撃も冷めやらぬ頃であったが、今読むと別の事柄を連想せざるを得ない。コロナ禍の初期、巷間しきりに囁かれた某国の陰謀説……。その真偽はさておき、未知のウイルスによる社会の混乱を予言していたかのような先見性には、改めて脱帽させられる。
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東郷 嘉博
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