この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第109巻収録。10万人ものユダヤ人の救出に貢献したしたラウル・ワレンバーグ。ソ連軍に拉致され病死したと伝えられているワレンバーグが、北ラウルの収容所に生きて監禁されているという。大戦中、ワレンバーグと行動を共にしたゴールドシュミットは救出計画を立案、作戦を阻む者の始末をゴルゴに依頼する。脚本:国分康一
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10万人のユダヤ人を救った
本作と同じ1994年に日本公開された映画『シンドラーのリスト』の影響もあって、第二次世界大戦中にホロコーストからユダヤ人を救った人物といえば、オスカー・シンドラーを一番に挙げる読者も多いだろう。
しかしシンドラーが1200人のユダヤ人を救っているのに対し、本作で登場するラウル・ワレンバーグはじつに10万人のユダヤ人を救っている。作中で語られるようにユダヤ人にとっては“神”に等しい存在なのだ。本作ではソ連にスパイ容疑をかけられ囚われたあと、死亡が伝えられていたワレンバーグがじつは生きていた、という設定で極上の戦後ミステリーに仕上げている。
背景のリアルさにこだわる
1947年に刑心臓発作により死亡したとされるワレンバーグだが、実際は1947年から1980年にかけて刑務所や収容所、精神病院などでワレンバーグを見たという証言があとを立たなかったという。さいとう先生曰く、
「主人公が荒唐無稽なので、これで背景まで嘘っぽかったら誰も読んでくれない。だから背景のリアルさにはとことんこだわる」
であるから、当時の世界情勢はもちろん、ドイツの街並みなど細かいディテールに至るまでの徹底的なこだわりも必見だ。日本の外務省職員が回し読みするのも納得していただけることだろう。
王道をゆく潜入脱出モノ
ミステリーと前述したが、その正体は53巻『崩壊 第四帝国 狼の巣』、73巻『ダイブtoトリポリ』などの流れをくむシリーズの王道“潜入脱出モノ”。ワレンバーグ救出のために召集された傭兵部隊vsロシア警備隊の闘いもみどころだ。
傭兵部隊の面々はワレンバーグに救われたユダヤ人の子孫たちである。救出作戦の最中、一人また一人と命を落とす傭兵たち。母を救ってくれた大恩人に報いるべく奮闘する姿は十分に感情移入できる。ラストで「ワレンバーグを切り札としてアメリカ政府を操る意図がある」と断罪され、CIAに殺害されるゴールドシュミットだが、ゴルゴに言った「命をかけてワレンバーグを救いたい」という言葉に嘘はなかったのだろう。
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町田 きのこ
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