この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第186巻収録。レンズをこよなく愛するマニア・柳井。そんな柳井の元に、カンボジアで拾った狙撃用のスコープが持ち込まれる。柳井は元軍人で狙撃銃に詳しい友人のジャクソンに分解に関して意見を求める。しかしスコープの特徴を聞いたジャクソンは「絶対に口外するな」と警告を発するのだった……。
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ゴルゴの並外れた情報漏洩対策にマニアも戦慄
ゴルゴの狙撃用装備の秘密と、並外れた情報漏洩対策の一端に触れることができる本話。ゴルゴが銃器のパーツを郵便で任務地に持ち込んでいる描写は初期からあるが、流出に備えて現地に伝達人まで配置しているとは流石の一言。
ゴルゴ13研究家・杉森昌武氏の解説にもあるように、『暗い街灯の下で』では銃を盗まれる失態もあったので、それを教訓にセキュリティ意識を強化したのだろう。なお、その依頼の標的のゲリラ一派は「接近戦で始末された」とのことで、ゴルゴの臨機応変な対処がうかがえる。最新スコープによる狙撃も、彼にとっては一つの手段に過ぎないのだ。
スコープ一つにも妥協しないプロのこだわり
箸休め的な短編といえる本話だが、スコープに関するマニアックな知識の数々には好奇心をそそられる。マウント一体型で安定性を高めているのも、極限までの精度を追求するゴルゴならではで、発注時のやりとりが目に浮かぶようだ。
スコープの内部に有毒ガスが封入されているのは流石にフィクションと思われるが、実際に一部のメーカーではガスにこだわり、通常使われる窒素ガスよりも遥かに高価なアルゴンガスを使用しているという(※1)。水分子を吸収しないアルゴンガスなら、内部の曇りや腐食を長期にわたって防げるそう。銃は今も進化を続けているのだ。
クメール・ルージュは未だ過去のものではない?
ページ数のためか簡単に流されているが、本話の時点におけるカンボジアでは「まだクメール・ルージュのゲリラが跋扈している」という。スカイプが登場するので作中の時系列が発表時(2010年)より昔ということもなさそうだが、『略奪の森林』などでも描かれたクメール・ルージュの残党が、しぶとく活動を続けているのだろうか。
2010年代に入ってからの資料でも、「近年までクメール・ルージュの残党に占拠されていた」といった記述は見られ(※2)、現地の人々にとってはまだ過去の話ではないのかもしれない。いつか再び長編エピソードで見たいテーマだ。
(※1)出典:デオン光学設計「細部へのこだわり: March スコープにアルゴンガスが充填されている理由」(2023年9月1日)
(※2)出典:外務省「カンボジア農村地域における地域学習センター普及事業」>「事業開始前の様子」(2015年9月28日)
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東郷 嘉博
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