この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第133巻収録。台湾経済界では、中国への外交圧力として最新型ミサイル迎撃システムTMDを配備しようとする長老派と、大陸への最先端技術導入を唱える若手グループの対立が激化していた。そんななか、若手グループ内に敵対勢力のスパイがいることが判明し……。ゴルゴの右手の持病がひさびさに発症するエピソード。脚本:横溝邦彦
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中台現代史を網羅的に学べる名作
ゴルゴの活躍は少ないが、中台現代史が網羅的に軍事、経済、外交、文化、世代間摩擦、中医(漢方)と描かれる名作だ。単なる情報取得のための教材ではなく、孫大儀の交渉術など、中国(台湾)人が交渉に強いとされる理由やその戦略性をも知らしめてくれる。諸外国から足元を見られがちな日本人としてはぜひ見習いたいところである。
さらにゴルゴほどの腕前でも常に基礎練習を怠らない姿が慢心を戒めてくれるなど人生の教材としても活用できる。なお、中台現代史関連では『呉越同舟』『返還前夜』『白団回顧録』と一連のエピソード群も充実している。ぜひ一読されたし。
世界四大博物館の一角、故宮博物館
“世界四大”には諸説あるものの、メトロポリタンやルーヴルと肩を並べる存在の故宮博物館は台湾の至宝である。それに比して北京の故宮博物館は世間の評価は低い。故宮博物館が前評判ほどのものじゃなかったという人は台北と北京を混同している可能性が高い。台北と北京の博物館の評価差は、蒋介石が北京の故宮博物館から選りすぐりの逸品を持ってきてしまったためだ。
いわば北京の所蔵品は残り物の二級品ばかりなのだが、これは歴史のうねりで生じたことなので博物館には罪はない。昔は双方、意地の張り合いでいがみ合っていたが、最近は共同催事を行うなど歩み寄りが見られる。
ミサイル防衛構想は交渉事のカード
ミサイル防衛システム構想はレーガンのSDIから、アメリカの政権が変わるたびに変わり、部分的なシステムや兵器として完成することはあっても構想全体の完了形はいずれも出来上がっていない。今エピソードのTMDもクリントン政権時代のもので、完了形はアウトプットされていない。
クリントン政権満了後、ブッシュ(ジュニア)政権では、アメリカ本土防衛に軸足を置いたMD構想へと変遷している。孫大儀の「(ミサイル防衛構想は)交渉事のカード」との発言がまさに正鵠を射て達観だ。実務的に機能するかどうかよりも存在もしくはその影が大切というエピソードは『ブラックジャイアント伝説』でも学ぶことができる。
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片山 恵右
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