この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第119巻収録。パンチョン・ラマの生まれ変わりと正式に承認された少年・ラモン。中国政府はラモンを拉致し、かわりに傀儡の少年・ノプチェを指名することでチベットの共産化を目論む。ダライ・ラマの依頼を受けたゴルゴは、ノプチェを指導者として承認する式典の阻止に成功するが、そこには山岳戦のプロ・燐との死闘が待ち受けていた。脚本:横溝邦彦
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極寒対決シリーズの最高峰
極寒での戦いを描いた人気作品には『極北のテロル』『氷結海峡』などがあるが、本作『白龍昇り立つ』には敵わない。そんな印象をもっているファンは多いはずだ。中国のチベット弾圧という重厚なテーマ、極寒の雪山でのゴルゴのピンチ、秘密部隊との戦いで描かれるアクションと心理戦。
これらの要素が一つになった完成度の高い作品が本作である。さらに収録巻の119巻には人気作『間違われた男』『臆病者に死を』も収録されているため、単行本単位でいっても完成度の高い一冊となっている。

歴史的事件をリアルタイムで問題提起
時事漫画としての先見性もハイレベルなゴルゴ13シリーズ。64巻『2万5千年の荒野』では、東北地方太平洋沖地震よりもはるか以前に原発事故における被害や政府の対応を問題提起した。今回はさらに精度を増して、本作が連載中の1996年5月28日に中国政府がゲンドゥン・チューキ・ニマ少年を拉致したことを認めている。
リアルタイムでビッグコミックを読んでいた読者の驚きたるや、いかほどのものだったか。さらに本作発表から11年後、ポーランドの登山隊が中国の国境警備隊が亡命チベット人を銃撃している現場を撮影しネット上に公開した。燐隊長率いる山岳部隊のモデルは実在したのである。
『白龍昇り立つ』は家宝です(笑)
作中で名前が登場するクライマーの山野井泰史氏は実在する人物だ。本作を「家宝としている」と語る山野井氏は、名作だけを集めた決定版『各界著名人セレクション』でも本作を推薦し、インタビューにも答えている。
山野井氏いわく、「スポーツと違って極限の状況下で100%の力を出し切れば生きては帰れない。生き残る人間はかならず余力を残しているものです」とのこと。「ゴルゴが常に100%の力を出し切ってギリギリのことを繰り返していたら生き残っていないはず」とする山野井氏の考察は、極限状態を潜り抜けてきた者だけが到達する真理だろう。

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町田 きのこ

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